彼女の、おそらく処女作に当たる前作の『人のセックスを笑うな』はとても印象深い作品でした。
彼女の作品には、どこか憂いがあり、優しい色が広がっている・・・。
本作は、できるだけ他者との関わりを避けようとする25歳の女性、丸山君枝が、会社を辞めて東南アジアに旅行するストーリーと、その君恵が14歳の頃の中学の同級生との交友のストーリーとがパラレルに進んでいく。
君枝は会社の昼休みも、いつもひとりで公園に行き、お弁当を広げる。
階下に行く時にも、なるべく他人と会わないために、エレベーターを使わないという徹底ぶり。
なんとなく自分にも覚えのある光景が広がってゆく(苦笑)
この物語で問いかけられている事は、
「なぜ人は他人と関わらなければならないのか?」
という事。
それに対して彼女はこう答えている。
「目的から離れて人と関わることに、意味ってあるかな?
あるのだろう。この世界で生きているとき、話してみたいという純粋な欲望だけで、人と関わるときがある」
そう、大切なのは「他人と関わること」そのものなのではなくて、「他人と関わりたいと思うこと」、つまりその気持ちなのでしょう。
中学時代の君枝は、基本的に自分の好きな人のみと話し、自分の好きな人に囲まれて暮らしていた。
しかしやがて、その幸せな虚構が信じられなくなってしまう。
それはその好きな人間関係の中に、実は残酷な大人の配慮が含まれていた事を知ってしまったから・・・。
ちなみに物語中に度々出てくる「神様」は、おそらく「他者との共感」の暗喩なのでしょう。
旅行中にも、昔から変わらないスタイルで神に祈りを捧げる人たちの様子が描かれています。
「神様」というのは、誰もが信じられるものであり、かつ普遍的に共感できるものでなければいけません。
その「神様」を信じられなくなってしまった君枝は、同時に他人と「共感する力」も失ってしまったのかもしれません。
ただ君枝は、そんな「神様」を信じるという気持ち、そして「他者」を信じるという気持ちを、旅行中に様々な人々に出会う中で、そしてて同僚のミカミさんとメールをする中で、少しずつ取り戻してゆく・・・。
他者を信じることと、神様を信じること。
それは本来根は同じものなのかもしれないと思いました。
やはり彼女の作品はスキだな・・・。
古本屋さんで買ってでも読んでください