滝本 竜彦氏による小説「NHKにようこそ!」は当時社会問題化していた引きこもりの青年を主人公にし、その強烈にリアルな閉塞感と焦燥感などの描写からくる説得力が多くの読者をひきつけました。この「もどかしい世界の上で」は、そのアニメ版のエンディングテーマに起用された曲であり、引きこもり状態からの脱却、激励という作品テーマに極めて沿い切った曲であるとも言えます。
小説版のちょっと危うくお堅い感じと、漫画版の乙一氏によるキャラグラフィックが融合し、まさに妖精か天使のような不思議な透明感を持つに至ったヒロインの中原 岬役を演じた牧野 由依さんによる歌声は非常に明るく素直で、ポップな曲調ともとても良くマッチしていながらこちらを励ましてくれている温かさに満ちていて、聴いていてじんわりと胸が癒される感じがします。しかもまったく押し付けがましくなく、踏み出したくても一歩が出ない人の心理を完璧に汲み取った歌詞と同じく辛い人に寄り添ってくれる距離感は、他の応援歌やエールを送ってくれるタイプの曲にはなかなか見当たらないものでしょう。
女性の曲の中でも割と高めに属しますが、音の高低やリズムの取り方の面では難しくなく、歌いやすい曲と言えると思います。カラオケで嫌がられることはないでしょうし、一人で歌っても元気になれます。かなり前に放送されたアニメの曲、ということでどうしてもスルーされてしまいがちなところはありますが、作品世界に極めてフィットしていることを抜きにしても、色々な方に歌い継いでいって貰いたい名曲ですね。