犬が主人公「ぼくの名はチェット」

この本は、東京創元社から刊行されたスペンサー・クイン著の名犬チェット&探偵バーニーシリーズで、その一作目になります。文庫版は「助手席のチェット」と改題されています。犬と人間のコンビの探偵ものになりますが、犬のチェットの視点から書かれています。この犬、賢いような賢くないような…。探偵バーニーの愛犬なのですが、警察犬訓練所を卒業しそこなったという経歴の持ち主。でも大好きなバーニーのために一所懸命なのです。チェットの一人称で書かれてますが、従来の動物が主人公のミステリーとは、少々ちがいます。擬人化された動物が、人間的思考で事件を解決したり、ヒントを与えるべく行動したりする小説がありますが、チェットはあくまでも犬なのです。飼い主に従順なだけの、いわゆるお利口さんと言われる犬ではありません。犬の気持ちで犬の行動をする。犬なので推理なんかしません。人間の言葉は理解でますが、込み入った話はわかりません。すぐに気が散るし、重要な話の途中でも眠くなってしまいます。ボールが好きだし、気になるものがあれば追いかけるのです。大好きなバーニーを守るために果敢に行動したりもします。読者は、この犬らしさにハラハラしたり、もどかしい思いをしたり。犬好きな方なら胸キュンすることでしょう。そして、元警察官のバーニーもなかなか優秀です。いつもお金に困っていますが、肉体派でちょっぴりシャイな彼が探偵なのです。バーニーもただの元警察官ではないようです。この小説は実に計算されていて、犬の自然な行動(のようにみえる)が物語を展開していくのです。このスペンサー・クインという作者、すでに別の名前で売れているらしいのですが、新たな名前で勝負してるようです。